2022-08-11 哲学の蝿をとおして
吉村萬壱『哲学の蝿』を一気に読み終えたあと、抜き書きしたものをまとめたり再考したりする時間を取っていなかったことがずっとひっかかっていた。 つるつると麺のように面白く入ってくるのに、重たく揺さぶられた。余計な感傷を入れず自分の偏りをも俯瞰して世界をそのまま見ることは実はなかなか難しいことだという気が最近ますますしているのだけれど、薄暗くて醜いものへの恐れと同時にある、額に汗を浮かべて頬を赤らめながらそれに手を伸ばしてしまう、というような、そういう濁りをもただそのまま、「良いも悪いもなくそういうもの」とただ見つめているのがよかった。ドライでもなくウェットにでもなく、卑屈にもならず達観でもなく。
あらゆるはかりはただ自分が世界を見るための、自分のためのものさしに過ぎないのに、それが絶対だと思い込む傲慢さ。傲慢なくせに自分に自信を持たなかったりして、まったくちぐはぐだ。
でもそういうことも断罪せずに「いやあ、変だな」と面白がっている、それは軽やかさとか達観というよりは、とにかく必死にやぶれかぶれになりながらも生きるということをせざるを得ない、時にそれは悲痛で、滑稽であるということを身を以て知っていることを感じさせられた。
一時間くらいかけて抜き書きを整理したり、考えたことを目もしてみたりしたけれど、読んでいた時に辿れる旅とはまた違うものになってしまうな。
本を読みながら付箋をつけてあとからまとめるやりかたが生む距離は、多くのものを落としているかもしれないと改めて思う。時間はかかっても読んでいる間に都度、旅の経過を記すべきなのかも。